【第4回】先祖は武士か庶民か?名前で判断できる「戸籍読取」の基礎知識

先祖は武士か庶民か?名前で判断できる「戸籍読取」の基礎知識

今回は、戸籍を読み解く上で押さえておきたい基礎知識について見ていきます。※本連載は、家系図作成代行センター株式会社代表・渡辺宗貴氏の著書『わたしの家系図物語(ヒストリエ) 』(時事通信社)から一部を抜粋し、物語形式で具体的な家系図の作り方を見ていきます。

「住んでいた地」と「名前」からわかる先祖の身分

◆名前から武士かどうかわかる⁉

先祖が武士かどうかの見極めに大事なことは、二つ。「住んでいた地」と「名前」です。

先祖が住んだ地は、武士がいた城下町だったのか? 武士と庶民が半々で住んでいたのか? 農村か? 漁村か? その地の藩は? を調べます。
 
次に、名前です。江戸時代には、武士の名前、神主の名前、お坊さんの名前などがおおよそ分かれていました。現代では時代錯誤も甚だしい話ですが、当時は庶民が武士っぽい名前を付けることができませんでした。
 
経験から来る感覚で判断する部分もあるので、やや難しいですが、例えば、必殺仕事人の中村主水。主に水と書いて「もんど」と読ませるような名前。これは武士としか思えません。また、北島三郎の木こりの与作のような「よさく」という名前。これはちょっと武士っぽくありません。
 
ただし名前だけで、必ずしもわかるわけではありません。もう一段階深く話すと、武士は実名(じつめい)と通称(つうしょう)という二つの名前を持っていました。実名は、諱(いみな)ともいい、殿様の前などフォーマルな場で使う名前。通称は、普段使う名前。実名はいかにも武士っぽい雰囲気の2文字の名前。通称は、庶民とさほど変わらない名前です。例を出します。

  ・織田信長(おだ のぶなが)の通称は三郎(さぶろう)、実名は信長
  ・坂本龍馬(さかもと りょうま)の通称は龍馬、実名は直柔(なおなり)
 
明治に入って戸籍ができたとき、武士は通称と実名のどちらかを選んで登録しました。実名登録なら武士とわかりやすいですが、通称登録だと、名前だけでは確定しにくくなります。

◆先祖が武士であった場合の調査方法

江戸時代(1603~1867)は、全国に300以上あった藩では、藩士の名簿を作っていました。それを「分限帳(ぶん(ぶ)げんちょう)」といいます。「武鑑(ぶかん)」「士族明細帳」「禄高帳(ろくだかちょう)」などもありますが、内容はほぼ同じで、藩士の氏名・役職・禄高(年俸)などが記載されています。なかには、居住地や作製時期の藩士の年齢・家紋などが記されているものもありました。現在の住宅地図のような、城下町の屋敷地図が残されていることもあります。
 
このような史料の多くは、地元の図書館や公文書館・博物館などに現在でも保管されていることが多く、丹念(たんねん)に調べることによって、その家の先祖がどのような身分の武士であったかが、より具体的に判明すると思われます。
 
また、武士である先祖は、仕えていた藩に、家系図や親類書(武士が、家族・親類の氏名や仕官先、本人との続柄などを書いた文書)を提出している可能性があります。それらの多くは、筆字で書かれた古文書ではありますが、先祖が書いた家系図類を発見し、活字化することによって、江戸時代初期か、あるいはそれ以前の先祖のことまでが詳細にわかる可能性があります。
 
いずれにしても、先祖がかつて仕えていた藩の史料は、当家の家系を調べるうえで、貴重な情報源となります。 

コラム

明治5年の人口統計(身分別・職業別)

江戸時代は正確な人口統計が調査されていませんが、明治維新直後の1872(明治5)年の身分別人口によれば、農民・職人・商人・町人などの平民(庶民)が約3083万人、旧幕臣や藩士などの士族(武士、卒族といわれた足軽などの下級武士を含む)が約194万人、皇族・神主・僧侶が2666人いました(※諸説あり)。
 
 
[図表3]明治5年の身分
  
これを比率にすると、平民が93%で、士族(武士)が約6%、その他の皇族・神主・僧侶が約1%です。また、1873(明治6)年の職業別統計では、人口のおよそ79%が農業、6.6%が商業、3.5%が職人とあり、その他は雑業と分類されました。
 
 
[図表4]明治5年の職業

「古い戸籍の古い文字」はどうやって読めばいいのか?

◆昔の字を読む

古い戸籍の文字は、ものすごい達筆だったり、字がつぶれていたり、個性的な字だったりで、読み取るのが大変です。特に「変体がな」などの昔の字が使われていると、気合だけでは読み取れないです。変体がなの辞典が、図書館などにありますから調べてみましょう。また、インターネットを使えれば、変体がなを扱ったサイトがあり、調べるのに便利です。
 
 
[図表2]変体がなの一部(出典:「変体仮名を調べる」http://www.book-seishindo.jp/kana/)
 
 
漢字のくずし字は、『書道辞典』や『くずし字用例辞典』などで調べられます。
 
戸籍を発行してくれた役所に、電話で問い合わせてもよいでしょう。役所に問い合わせると、戸籍の発行番号(近年の戸籍では下部、古い戸籍では右に発行番号が書かれています)の確認をされることが多いです。問い合わせる場合は、手元に戸籍を用意しましょう。 

◆戸籍でよく出てくる記載

次は、戸籍・除籍謄本によく出てくる記載についてご説明します。古い戸籍を取得後、わからない言葉が出てきたときに見返してください。
 
・「本家」と「分家」 
ある家(本家)から出て、新しく一家を創立することを「分家」といいます。
 
・「総本家」 
1898(明治31)年施行の民法で使用が廃止された用語で、一族の根源となる本家のことです。
 
・「戸主」 
家にはその家長としての身分を持つ「戸主」がいて、戸主は家族に対して一定の権限と義務を持ちました。戸主の権限は、1948(昭和23)年の現行民法によって消滅し、戸籍上は「筆頭者」となりました。
 
・「隠居」 
「隠居」とは、戸主が自ら生前に戸主の地位を退き、戸主権を相続人に継承させ、その家族となることです。戸主が老衰や病弱などからその責任に耐えられなくなったとき、戸主は自らの意思で隠居することができました。
 
・「婿養子縁組」と「入夫婚姻」 
「婿養子縁組」とは、婚姻と同時に夫が妻の親と養子縁組することです。「婿養子縁組」に近いものに「入夫婚姻」があります。女子で戸主の地位にあるものを「女戸主」といいます。女戸主である妻の家に夫が入る婚姻の形態を「入夫婚姻」といいます。
 
整理すると、女性が戸主のときは「入夫婚姻」、戸主の跡継ぎ娘のときは「婿養子縁組」となります。
 
・「廃絶家再興」 
新たな家の創立には、分家の他に「廃絶家再興」があります。「廃家」とは、戸主が他家に入って家を消滅させることです。「絶家」とは、戸主を失い、家督相続が開始されたにもかかわらず、家督相続人がいないため、その家が消滅したことをいいます。これらの家を再興することが、「廃絶家再興」です。

コラム

 家系図作成業者について 
 
インターネットで検索すると、全国に20~30件以上の「家系図作成業者」が見つかると思います。家系図作成業者には、家系図に関する専門知識(苗字・家紋・歴史等)がある業者とない業者がいます。大半が、専門知識がない業者です。なぜかというと、家系図作成業務を行う業者のほとんどが「行政書士」だからです。
 
なぜ行政書士がほとんどかというと、戸籍を取って家系図を作る仕事は、近年まで行政書士の独占業務だったからです。行政書士試験の内容は、公務員試験に近く、法律に基づいて各種文書を作成する能力を図るためのものです。広く浅く民法や一般常識を問うのが試験内容で、家系図の専門知識とは無縁です。
 
ですので、現在の家系図作成業者は行政書士がほとんどであると同時に、家系図に関する専門知識がない業者が大半なのです。
 
頼むのであれば、専門知識がある業者がもちろんよいですが、「とにかく安く戸籍調査だけ頼みたい」などという場合は、専門知識がなくとも、戸籍調査だけはきっちりやってくれる安い業者を探す手もあります。家系図作成業者を利用するときは、いくつか問い合わせて、目的に応じて上手に利用するといいでしょう。