書籍「わたしの家系図物語(ヒストリエ)」原文 公開

「わたしの家系図物語(ヒストリエ)」【目次】

  • プロローグ 初めて見る戸籍
  • 第一講 1000年さかのぼる家系調査
  • 第二講 戸籍以上のことを知るには…──土地と苗字の基礎資料集め
  • 第三講 先祖はどんな生活をしていた?──本格調査1「文献からの情報収集」
  • 第四講 お墓や菩提寺、家紋を調べよう──本格調査2「人からの情報収集」
  • 第五講 世界に一つしかない『自家の歴史書』──家系調査をまとめると、家宝になる
  • プロローグ 先祖が住んでいた地へ

第一講 1000年さかのぼる家系調査

※(ノウハウパート)全文公開

家系図の書き方

◆基本的な書き方を知ろう

① まずは、題名を書きます。紙の右上に「◯◯家系図」と書きます。家紋がわかってい れば画像を入れたいところです。  

② 紙の天(上側)が過去で、地(下側)が未来です。また、向かって右側が過去で、左側 が未来です。  

③兄弟姉妹は、生まれた順に右から書きます。  

④夫婦は、夫が右です。夫婦の表現は、次の2パターンあります。  

1が、古来からの表現方法です。 2は、近年生まれた表現方法です。  

書きやすい方を選んで構いませんが、筆で書いて巻物にするなど、伝統的な方法 で家系図を作るのであれば、1の方がよいでしょう。  

⑤ 家系図を書くときに使う線は、次の三種類です。線の色は、血縁関係を表す赤がよい でしょう。    

――─(棒線) 実子関係を示す線    

===(二本線) 養子関係を示す線    

……(破線) 父子関係不明・代数不明を示す線  

⑥ 名前・続柄(出生の順番)・生年月日・死亡年月日を書きます。戒名(法名・法号)を書 いてもよいでしょう。  

こちらの図を参考に、これから美々が作る家系図でさらに学んでいきましょう。  

基本的に家系図は、見やすければ自由に書いてよいですが、最低限、次の2点は守りま しょう。  

  • 上から下、右から左を時系列とする
  • 兄弟姉妹は生まれた順に右から、夫婦は夫を右に書く
◆人名と注釈のバランスに気をつける  
  • 人名は目立たせましょう。
  • 続柄は、人名の右に、人名より小さな字で入れるとよいでしょう。
  • 続柄は、系図の線で両親がわかっている場合は、単に「長男」「長女」等。養子や嫁 いできている場合は、判明していれば両親の名も書くとよいでしょう。
  • 代数を入れる場合は、バランスを見て続柄の上か右あたり がよいかもしれません。
  • 注釈は、人名より小さな字で。また、人名より1スペース 分以上は下げるとよいでしょう。
  • 注釈は、右から時系列に並べましょう。一番右が出生日、 一番左が没年、あるいは判明していれば、戒名を書くのが よいでしょう。
◆複雑なケースは…  

その他、複雑なケースは、ケースバイケースで見やすいようにします。  

例えばよくあるのが、離婚や脂肪などの理由で前妻と別れ後妻がいる場合、

右から時系 列というルールを優先させるとこうなります。

ですが、前妻と後妻が婚姻しているようにも見えてしまいます。  

そこで、わかりやすさを重視するとこうなります。

古来からの表記方法を優先するなら前者ですが、お好みでわかりやすい方を選んでもよ いと思います。

戸籍・除籍謄本について知ろう  

◆戸籍謄本と除籍謄本の違い  

「戸籍謄本」と「除籍謄本」の違いは何でしょうか。  

戸籍謄本とは、現在の戸籍のことです。世帯主をはじめ、その家族が載っています。  

除籍謄本とは、記載されている人物すべてが、結婚か離婚、死亡、転籍(本籍地を変更) により、誰もいなくなったことを表した戸籍のことです。  

その他、「改製原戸籍」という、戸籍制度が改正された際にできる戸籍もありますが、 これは除籍謄本に近いものです。  

本書では、便宜上、すべてを含めて「戸籍」と表現することがあります。  

ついでに、「謄本」と「抄本」についても述べておきましょう。  

戸籍には、戸籍の一部(例えば、特定の一名のみ)を記載した抄本と、すべてを記載した 謄本とがあります。家系調査で請求する戸籍は、すべて謄本です。

◆戸籍はどこにある?  

まず、自分の戸籍謄本は、「自分の本籍地が置かれている役所」にあります。  

結婚をしていれば自分が筆頭者の戸籍。結婚していなければ両親いずれか(たいていは 父親)が筆頭者の戸籍があります。  

自分→父親(1代前)→祖父(2代前)→曾祖父(3代前)→……と順に、古い戸籍(除籍 謄本)をたどっていきますが、代々同じ地に住み(同じ地に本籍地を置き)、一カ所の役所に 代々の戸籍があることもあります。  

逆に、全国を転々として、各地の役所に先祖の戸籍が眠っていることもあります。  

これからの物語で語られる葛西家の場合は、現在は北海道札 幌市清岡区(架空の区)に本籍 があり、物語の舞台となっている札幌市清岡区役所に最初の戸籍がありました。  

この後、葛西美々は、北海道 釧路市で生まれた父や阿寒町で 生まれ釧路市内を転々とする祖 父の戸籍、さらには青森から北 海道に渡った曾祖父の戸籍をさかのぼって追い、青森県の役所 から郵送で取り寄せます。

◆戸籍・除籍謄本には、保管期限がある  

全国のどこかの役所に保管されている先祖の戸籍は、子孫が探しに来なければ、この先 誰の目にもふれることなく、永遠に破棄されてしまいます。  

保管期限を迎えた当日や役所の年度末、あるいは市町村合併のタイミングで、誰に通知 されることもなく、役所や法務局の冷たい倉庫に運び込まれ封印されます。

東京や大阪、 あるいは各都道府県の都心部の役所では、倉庫に保管されるのではなく、本当に破棄処分 されています。  

一度封印された先祖の戸籍は、二度と取得することができません。保管期限は、現在 150年で、明治期の戸籍が一日ごとに破棄されています。  

すぐにでも調査を始めないと、江戸末期に生まれ明治維新期を生きた先祖のことが永久 にわからなくなるのです。  

古い戸籍・除籍謄本が破棄されて一番困るのは、江戸末期~明治初期のご先祖様の「お 名前」と「本籍地(先祖が住んだ地)」が判明しなくなることです。  

江戸末期~明治初期の先祖の情報を戸籍で得ることができないと、その後の郷土史調査 やお寺・お墓探しなどが不可能になってしまいます。  

江戸時代は今とは違い、人の移動に制限があった時代です。武士も庶民も、その地を領 地とした藩に管理されていました。古い時代は、「戸籍の本籍地=住所」でした。  

戸籍から本籍地がわかれば、先祖は代々その地に住んでいた可能性が非常に高いです。 先祖のお墓や先祖が代々お使いのお寺(菩ぼ提だい寺じ )が、その地にあると考えられます。

◆戸籍でさかのぼれるのは、150~200年前まで  

日本に戸籍制度ができたのが1872(明治5)年(壬申戸籍)で、現在取得できる一番 古い戸籍は、1886年(明治 19 年式戸籍)です。  

戸籍では、150~200年前の先祖までたどれます。江戸末期~明治初期の先祖の名 前や生まれた年、亡くなった年がわかります。  

世代数(両親を1代上と数える)でいうと、おおよそ3~6代前までわかります。  

さかのぼれる世代数は、先祖の存命期間や隠居・分家時期、あるいは戸籍の改正時期等 に左右されますが、平均4~5世代前までわかることが多いです。

◆戸籍以上の調査はどうする?

まずはどの家でも「戸籍調査」が絶対に必要です。

最古戸籍(一番古い戸籍)を見て、ご先祖様が江戸末期~明治初期に住んでいた場所を確 定させる。そのうえで戸籍以上の調査方針を立てます(戸籍以上の調査については、第三章以 降で詳しく述べます)。

戸籍・除籍謄本の取り寄せ方  

では、戸籍の具体的な取得方法を解説しましょう。

といっても、これから述べることのすべてを理解する必要はありません。  

戸籍の取り扱い事務は、市町村役場で行われています。  

今すぐ役所の窓口に行って、

「家系図を作るために戸籍を取りたいのですが、どうすれ ばいいですか?」

と、聞いてみましょう。役所の担当の人が、戸籍の取り方を教えてくれる はずです。  

前に申した通り、戸籍は保管期限があるので、なるべく早く、必ず取ることが大事なの です。  

戸籍の取得は、「習うより慣れろ」「巧こう遅ち は拙せっ速そくに如し かず(上手だが遅いよりも、下手でも速 いほうがよい)」です。

◆まずは、現在の自分の戸籍謄本を取る  

戸籍を取るのに必要なものは、左の表のとおりです。  

表の「請求時に必要な情報」の項目にある「請求者」とか「筆頭者」とか「請求に係る ものとの関係」とか、一見ややこしいですが、順を追って実践的に把握していきましょう。  

また、「戸籍の請求範囲」の項目にある「直系尊属」とは、すなわち、血のつながりの ある両親のことです。

例えば、「保管分すべて」とは、父の戸籍のほかに、同じ役所に父の父(祖父)やその父 (曾祖父)の戸籍があれば、それもすべてほしいということです。

また、両親の家系を調べる場合は、「父方直系尊属および母の父方直系尊属保管分すべ て」と請求します。

すべての系統の場合、「直系尊属保管分すべて」とします。  

お子様・お孫様がいて、その戸籍も取る場合は、「直系卑属保管分すべて」と請求します。

◆役所の窓口での請求方法  

役所窓口の戸籍証明請求書を使います。

◆郵送での請求方法  

遠くの地域にある役所がある場合などは、郵送で戸籍を請求しましょう。  

郵送での請求に必要なものは、次のものです。  

  • 切手、封筒
  • 返信用封筒(A4版)
  • 定額小為替(郵便局で買います)
  • 身分証のコピー
  • 必要な戸籍とのつながりを示す戸籍のコピー
  • 請求時に必要な情報を書いたメモ(または戸籍証明請求書)
  • 戸籍の請求範囲を書いたメモ

 

 

古い戸籍へとさかのぼる方法 ──「戸籍調査」シミュレーション    

それでは、美々より一足先に、現在から江戸末期まで戸籍をさかのぼってみましょう。  

戸籍請求のコツや、読み方のコツも同時に学びましょう。  

著者「渡辺宗貴(わたなべ むねたか)」の戸籍を見本にします。

◆現在の戸籍から  

「渡辺宗貴」の現在の戸籍です。  

本籍地が札幌市清田区なので、清田区役所に保管されていました。  

父の名が載っています。一代前までさかのぼれました。    

宗貴→荘一

この戸籍から、一つ前の戸籍請求先を読み取ります。  

基本は「戸籍がいつできたか」を見て、一つ前の戸籍を取ることです。  

また「従前戸籍」「転籍」「分家」等の記載から、より古い戸籍を同時に請求することも できます。  

まずは「戸籍事項 転籍」欄より。   

【転籍日】平成 20 年6月5日
【従前本籍】北海道札幌市白石区北郷一条七丁目7番  

とあります。

「札幌白石区役所」に、渡辺宗貴が筆頭者の転籍前の戸籍があることがわかります。  

もう一つは「身分事項 婚姻」欄より。  

【婚姻日】平成 18 年7月 28 日
【配偶者氏名】玉置朱羽子
【従前戸籍】北海道札幌市豊平区月寒東三条十七丁目 15 番 渡辺荘一  

「札幌豊平区役所」に婚姻(結婚)前の戸籍があることがわかります。  

筆頭者は「渡辺荘一」。結婚前は、父の戸籍に子どもとして入っていたわけです。  

このように、一つの戸籍から複数の請求先がわかるケースがよくありますが、どちらの 戸籍も請求します。

◆1代前の戸籍から

「渡辺宗貴」の父「渡辺荘一」の戸籍です。

「渡辺荘一」の父として、「渡辺荘三郎」の名が載っています。二代前までさかのぼれま した。    

宗貴→荘一→荘三郎

次の請求先を読み取ります。 「戸籍事項 戸籍改製」より。   

【改製日】 平成 14 年3月2日
【改製事由】平成6年法務省令 第 51 号附則第2条第1項による改正

とあります。  

戸籍法の改正でこの戸籍ができた ということは、同じ役所に改正前の 戸籍があるということです。この戸 籍と同じく、「札幌豊平区役所」に 戸籍を請求します。

「身分事項 婚姻」欄より。   

【婚姻日】昭和 43 年6月5日
【配偶者氏名】葛西巴
【従前戸籍】北海道釧路市鳥取 43 番地 渡邉荘三郎

とあります。

「釧路市役所」に婚姻(結婚)前の戸籍があることがわかります。  

筆頭者は「渡辺荘三郎」。「渡辺宗貴」の父「渡辺荘一」も、結婚前は父(宗貴の祖父) の戸籍に子どもとして入っていたわけです。  

宗貴の住む札幌市と釧路市は、車で7時間くらいかかる距離ですので、郵送で請求しま しょう。  

請求時に必要な情報は、下表の通りです。  

ちなみに、父方以外に、母方もたどることができます。  

この戸籍に「渡辺宗貴」の母「渡辺巴(旧姓 葛西)」が記載されています。物語のモデ ルとなった著者の母方葛西家です。

「身分事項 婚姻」欄より。   

【婚姻日】昭和 43 年6月5日
【配偶者氏名】渡辺荘一
【従前戸籍】 北海道釧路市堀川町7番地 11  葛西丑藏

とありますので、母方もたどる場合は「釧路市役所」に請求します。

◆2代前の戸籍から  

「渡辺宗貴」の祖父「渡邉荘三郎」の戸籍です。  

曾祖父「渡邉荘太」の名が載っています。三代前までさかのぼれました。    

宗貴→荘一→荘太→荘三郎

ところで、「渡辺」ではなく「渡邉」と書かれていますが、これは近年簡単な「辺」に 表記を変えるよう届けたためです。  

それでは、次の請求先を読み取ります。  

右側上の欄に、 「 上磯郡上磯町字茂邉地二百五番地から転籍 渡邉ユミ届出昭和三十七年八月十四日 受付」 とあります。

渡邉家は、釧路に来る前は、同じ北海道の上磯町に住んでいたようです。  

このあたりから古い時代の地名が出てきて、請求先がわかりにくいケースがあります。  

古い地名は、役所に聞いたりインターネットで調べたりします。

「上磯町」をネットで検索すると、「北海道渡島支庁中部にあった町で現在の北海道北斗 市」であることがわかりますので、「北斗市役所」に戸籍を請求します。

◆転籍前の2代前の戸籍から

「渡辺宗貴」の祖父「渡邉荘三郎」の戸籍です。

祖父の転籍前の地である 上磯町(現在の北斗市)に請求した戸籍です。  

先ほどの戸籍以上にさかのぼれていませんが、「渡邉荘三郎」の上の欄に、 「上磯郡茂別村字茂邊地205番地 戸主荘太参男 分家届出 昭和8年1月 12 日受付」 とあります。

戸主とは、現在の筆頭者にあたります。分家とは、旧民法の制度です。

このあたりから、現在の戸籍表記とは違う記載が散見されますし、手書きで字が読みに くいことが多くなってきます(対応方法については、本章の次の項で述べます)。

「渡邉荘三郎」は分家をしてこの戸籍の戸主となったようですが、その前は父「渡邉荘 太」が戸主の戸籍に入っていたようです。 「北斗市役所」に戸籍を請求します。

◆3代前の戸籍から

「渡辺宗貴」の曾祖父(3代前)「渡邉荘太」の戸籍です。  

四代前までさかのぼれました。

宗貴→荘一→荘三郎→荘太→荘兵衛

次の請求先を読み取ります。

この戸籍の請求先は、2つ。 「渡邉荘太」が「この戸籍の前にいた戸籍」と「この戸籍の後に入った戸籍」です。  

まずは、この戸籍の前にいた戸籍を請求します。

「渡邉荘太」の上の欄に、 「 上磯郡上磯町字茂邉地百十七番地 戸主渡辺まる伯父 分家届出 大正十四年十月 三日受付」  とあります。

「渡邉荘太」は、この戸籍ができる前は、「渡辺まる」という人物の戸籍に入ってたよう です。

「渡邉荘太」が「渡辺まる」の伯父にあたるということは、「渡辺まる」は「渡邉荘太」 の兄の子どもなのでしょうか?

「北斗市役所」に分家前の戸籍を請求します。  

ちなみに、「渡辺まる」は「渡辺」と表記されています。何か理由があるのでしょう か? の後の戸籍の表記を見てみましょう。  

次に、この戸籍の後に入った戸籍を請求します。

「渡邉荘太」の上の欄に、 「隠居届出 昭和八年二月十二日受付」 とあり、その後に、 「昭和八年二月十二日 渡邉莊之助 家督相続届出アリタルニ本戸籍を抹消ス」 とあります。  

これは、この戸籍は、「渡邉荘太」が隠居し、次男である「渡邉莊之助」に家督相続させたため、除籍になったということです。  

同じ本籍地に家督相続して戸主となった「渡邉莊之助」の戸籍があり、「渡邉荘太」は その戸籍に入っているということです。 「北斗市役所」に隠居後の戸籍も請求します。  

このように、ただ戸籍を追うようにさかのぼるばかりではないケースも出てきます。

こ の隠居後の戸籍を追わないと、隠居後の荘太の経緯がわからなくなります。

つまり、さか のぼるばかりではなく、没年まで追うという考え方も必要になります。

◆3代前の隠居後の戸籍  

まずは、先ほどの戸籍の後の戸籍です。  

家督相続して戸主となった「渡邉荘太」の次男「渡邉莊之 助」が戸主の戸籍です。  

隠居した「渡邉荘太」が入っています。この戸籍を取得す ることで、「渡邉荘太」の没年が判明しました。  

戸主の「渡邉莊之助」ですが、「渡邉莊(太)之助」と書かれています。この「太」は 書き間違えです。「太」→「之助」と修正された跡です。  

よく見ると、戸籍の上の段に「一字訂正」とあります。このような書き間違えや修正は よくあります。

◆3代前の前の戸籍  

次に、先ほどの戸籍の前の戸籍です。  

戸主「渡辺まる」の上の欄に、 「大正9年 10 月 22 日 前戸主荘吉死亡に因り 家督相続届出」  とあります。 「北斗市役所」に戸籍を請求します。  

このケースのように、単純に「父→祖父→曾祖 父→……」と、直系の戸籍をさかのぼるだけでは ないことがよくあります。  

ところで、「前戸主 荘吉」とは何者でしょう か? 

次の戸籍を見れば判明するかもしれません が、この戸籍からちょっと検証してみましょう。

「渡辺まる」の右の欄を見ると、「父 千葉彌作」 「母 こと」とあり、さらに右に「渡辺荘吉養女」 とあります。

① 「渡辺まる」の実の両親は、千葉家。  

② 「渡辺まる」は、「千葉まる」として生まれ、「渡邊荘吉」の養女となる。  

③「渡邊荘太」は、「渡辺まる」の伯父(「渡邊荘太」からみると「渡辺まる」は兄の子ども)  

ということは、「渡邊荘吉」は「渡邊荘太」の兄にあたります。  

このように、古い戸籍(正確には、1955〔昭和 30 〕年に戸籍法が改正される前に使われてい た改正原戸籍)には、家族(配偶者、子ども)だけでなく、祖父やきょうだいの配偶者、きょ うだいの子ども、孫まで記載されています。  

一方、現行の戸籍(現在の戸籍)には、筆頭者をはじめ、その家族──すなわち、配偶者 や子どもが載っています。要するに、家族単位です。  

これは、「三代戸籍禁止の原則」といって、親子二代までしか記載されないからです。

◆3代前の兄が戸主の戸籍

渡辺宗貴の曾祖父(3代前)荘太が入った、兄・荘吉が戸主の戸籍です。

「渡邉荘吉」の左の欄に、 「 前戸主渡邉荘兵衛明治 42 年5月 31 日死亡に因り戸主と為る同年7月1日家督相続届 出同日受付」  とあります。

「北斗市役所」に戸籍を請求します。

「『渡辺』なのか? 『渡邉』なのか?」についてですが、古い戸籍になればなるほど、こ のようなケースはよく見られます。  

例えば、「高橋さん」「高田さん」の「高」という字。「髙」といういわゆる「はしごだ か」に表記されることもあります。

「斉藤さん」の「斉」もいろんな表記があります。  

なぜこのようなことが起きるのか、大きく2パターン考えられます。  

⑴漢字の表記に何らかのこだわりがある。  

⑵役所の方の書き癖。  

⑴の場合は、例えば「高田さん」の「高」と「髙」。もともとは「高」の歴史が古く後 に「髙」が生まれました。例えば、ある地域の「高田さん」本家にあたる家が、分家した 家を本家と区別するために「高」を使わせず、「髙」を使わせた(あるいはその逆)などと いったケースが考えられます。  

⑵の役所の方の書き癖ですが、古い時代の戸籍ではこういうことがよくあります。これ は、役所の方がいい加減だったというわけではございません。そもそも中国から入ってき た漢字は、当時さほど重視されておらず、読みが合っていればそれでよかったのです。  

この戸籍を見るに、戸主「渡邉荘吉」も「渡邉荘吉」の父「渡邉荘兵衛」も「渡邉」ですが、この「渡邉荘兵衛」は「アサ」の右では「亡 渡辺荘兵衛 妻」とあります。

同じ 戸籍内で同一人物の苗字が違う表記にされています。  

特段明確な理由なく、「渡邉」と「渡辺」が混在しているようです。  

ということは、⑵のケースで、この戸籍を書いた役所の方の書き癖と推測されます。  

同じく「荘」の字も「莊」と書かれている箇所もあります。これも役所の方の書き癖と 推測されます。

◆4代前の戸籍  

「渡辺宗貴」の4代前「渡邉荘兵衛」の戸籍です。

五代前までさかのぼれました。   

宗貴→荘一→荘三郎→荘太→荘兵衛→荘兵衛

この戸籍は「明治 19 年式戸籍」であり、これ以上古い戸籍はありませんでした。  

これ以上古い戸籍がないかどうかの見極めは、「明治19 年式戸籍」の形式を覚えるなど、 少し経験とコツがいります。  

ですので、これ以上古い戸籍がないかどうかは、必ず役所に確認しましょう(私の場合、 この戸籍を発行した「北斗市役所」に確認しましたが、残念ながらありませんでした)。  

また、戸主「渡邉荘兵衛」の上の欄に、 「嘉永元年6月1日 秋田県南秋田郡脇本村 加藤平助二男入籍ス」 とあります。  

戸主「渡邉荘兵衛」は、脇本村の加藤家に生まれ、北海道の渡邉家に養子として入った ようです。  

このような場合は、実家である加藤家の戸籍があるかどうかを確認してみましょう(加藤家の戸籍も、「秋田県男鹿市〔戸籍にある「秋田県南秋田郡脇本村」の現在の地名〕役所」に確認したところ、残念ながらありませんでした)。

戸籍を読み解く基礎知識

◆昔の字を読む 

古い戸籍の文字は、ものすごい達筆だったり、字が潰れていたり、個性的な字だったり で、読み取るのが大変です。  

特に「変体かな」などの昔の字が使われていると、気合だけでは読み取れないです。  

変体かなの辞典が、図書館などにありますから調べてみましょう。また、インターネッ トを使えれば、変体がなを扱ったサイトがあり、調べるのに便利です。  

漢字のくずし字は、『書道辞典』や『くずし字用例辞典』などで調べられます。  

戸籍を発行してくれた役所に、電話で問い合わせてもよいでしょう。

役所に問い合わせ ると、戸籍の発行番号(近年の戸籍では下部。古い戸籍では右に発行番号が書かれています)の確 認をされることが多いです。問い合わせる場合は、手元に戸籍を用意しましょう。

◆戸籍でよく出てくる記載  

次は、戸籍・除籍謄本によく出てくる記載についてご説明します。  

古い戸籍を取得後、わからない言葉が出てきたときに見返してください。

・「本家」と「分家」

ある家(本家)から出て、新しく一家を創立することを「分家」といいます。

・「総本家」  

1898(明治 31 )年施行の民法で使用が廃止された用語で、一族の根源となる本家 のことです。 ・「戸主」  家にはその家長としての身分を持つ「戸主」がおり、戸主は家族に対して一定の権限 と義務を持ちました。戸主の権限は、1948(昭和 23 )年の現行民法によって消滅し、 戸籍上は「筆頭者」となりました。

・「隠居」

「隠居」とは、戸主が自ら生前に戸主の地位を退き、戸主権を相続人に継承させ、その家族となることです。戸主が老衰や病弱などからその責任に耐えられなくなったとき、 戸主は自らの意思で隠居することができました。

・「婿養子縁組」と「入夫の婚姻」

「婿養子縁組」とは、婚姻と同時に夫が妻の親と養子縁組することです。 「婿養子縁組」に近いものに「入夫の婚姻」があります。女子で戸主の地位にあるもの を「女戸主」といいます。女戸主である妻の家に夫が入る婚姻の形態を「入夫の婚姻」 といいます。 整理すると、女性が戸主のときは「入夫婚姻」、戸主の跡継ぎ娘のときは「婿養子縁 組」となります。

・「家の創立」  

新たな家の創立には、分家の他に「廃絶家再興」があります。 「廃家」とは、戸主が他家に入って家を消滅させることです。「絶家」とは、戸主を失 い、家督相続が開始されたにもかかわらず、家督相続人がいないため、その家が消滅し たことをいいます。 これらの家を再興することが、「廃絶家再興」です。