『1000年たどる家系図の物語』 第七章 人はなぜ家系図を作るのだろう?

【小説版】「1000年たどる家系図の物語(仮)」-目次‐
序章 源静香と1000年の家系図
【第一部】
第一章 1000年の物語を紡ぐ旅
第二章 家系図はじめました
【第二部】
第三章 200年前 戸籍が紡ぐ軌跡
第四章 400年前 藩政資料が紡ぐ武士の人生
第五章 1000年前 -人皇第五十代帝桓武天皇四十世ノ子孫源静香-
【第三部】
第六章 また家系図はじめました
第七章 人はなぜ家系図を作るのだろう?←このページはコチラになります。
第八章 霧の渋民
第九章 雨の渋民
第十章 飴の渋民~泣いた赤鬼~
第十一章 虹の渋民
第十二章 伊予守源義経~夢とロマンと…
-終章- 優しくなりたい
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第七章 人はなぜ家系図を作るのだろう?

-義経の召馬、渋民の山伏-

「1、お手紙の返事がきました」
「2、テレビに出ます」
「3、取材させてください」

静香さんから三つの報告LINE。一つ目は、霧然村の同姓の家からの返事だろう。二つ目と三つ目は意外すぎて状況がつかめない。

静香さんは返事を待つ間、図書館で『岩手県史』や『盛岡市史』といった郷土誌を調べていた。江戸時代や明治時代の人名や信仰に関する章を重点的に読み、気になる記載には付箋を貼り、コピーを取るという地道な作業を続けていたという。

結果、「源」という苗字の記載は見つからなかったものの、霧然村の駒形神社に「源義経の召馬を供養した」という伝説があることを発見。また、『渋民村の山伏』という興味深い項目にも目を留めた。姫神山はかつて北奥羽の霊山とされ、山伏たちの修行地だったという。霧然村とのつながりはあるのだろうか。

-羽衣伝説-

調査結果は地味ではあるが、静香さんは「成果ゼロも一歩前進」と前向きだった。それは篁先生から教えられた言葉だ。「記録がないことを確認するのも、大切な成果だ」。その言葉に支えられ、静香さんの努力は続いている。

たとえゼロでも、それをプラスとして捉えられる人でありたい。そんなことを考えていたところ、庭先で自転車の音が響き、タンクトップに薄いふわっとしたなんかを羽織った笑顔の静香さんが姿を見せた。

-「1、お手紙の返事がきました」-

電話帳リスト『05、源 要司』さんから届いた手紙には、美しい字で次のように丁寧に記されていた。

家紋:「丸に笹竜胆」
菩提寺:「曹洞宗 宝徳寺(石川啄木記念館のすぐ裏)」
先祖:「源 清左衛門は当家の先祖」
親族:「源 要次郎氏は祖父の弟。小さな子(昌之氏)を連れて北海道へ渡った」

判明した情報を系図に書き足す。

さらに、「源家は山間の農家だったが、かつて山伏だったらしい」とも記されていた。この記述に静香さんは目を輝かせ、「山伏って、郷土誌にあった『渋民村の山伏』って項目と関係があるかも」と興奮気味に話す。その言葉に、僕も新たな謎の予感に引き込まれた。

「親切なだけじゃなく、字もすごくきれいで素敵だね」と静香さんが微笑む。家紋が義経のものと同じ「笹竜胆」であること、そして菩提寺が石川啄木の父が住職を務めていた宝徳寺であることがわかり、静香さんは感動している様子だった。

新たな手がかりが、静かに物語の糸を紡ぎ始めていた。

-三方六-

「うれしいですね。このお返事は。それに早いですね。」
「速達で出しちゃったの。返信用封筒も速達。」
静香さんの積極性が、相手にも伝わったのだろう。

「そうでしたか。まずは、お礼のお手紙をすぐ出しましょう。北海道のお菓子も添えましょう。そして、宝徳寺にもお手紙を出してみましょう。」
「…行ってこようかな。」

静香さんの気持ちはよく分かる。だが、100年以上も縁が途絶えていた親族や寺院を訪ねるには、慎重な準備が必要だ。短い旅では足りない可能性も高い。
「最低限、お寺の返事を待ってからにしましょう。」
「うん、わかった。夏休み中か、シルバーウィークに行けるといいな。」

-なまはげの舞、デカプリオの夢-

宝徳寺宛ての手紙には、先祖が世話になったことへのお礼、長く途絶えていた縁へのお詫び、過去帳の確認依頼を記した。お礼としてお米券も同封する丁寧さだ。

「渡辺さん家はシルバーウィーク、どこか行くの?」
「秋田です。」
「秋田?何しに?」
「なまはげです。」
「なまはげ?なんで?」

深い意味はない。ただ『なまはげ館』の動画を見て妙にツボにはまった。たまたま再放送で見た『タイタニック』の影響で船旅にも興味が湧いた。それで苫小牧からフェリーで秋田に行こうと思っただけ。

自分で説明してみても、確かに深い意味はなかったな…。でも、話しているうちに「うちの家族も岩手についていこうかな…」と自然と思い始めた。何か新しい発見がありそうな予感がしたからだ。

-「2、テレビに出ます」-

「でね。テレビに出ることになったの!」
なんでも、全国放送の朝の報道番組で苗字のルーツ特集に取材されるらしい。

「SNSに家系調査のこと書いていいって前に言ってたでしょ?」
「ええ、覚えてます。」
「そこに渡辺さんの会社のリンクも貼ってたの。『頼むならこちら―』って感じで。」
あら?そうだったの。「そうだったんですか。ありがとうございます。」
「そしたらテレビ局からコメント来てさ、直接取材依頼されちゃったの!」

SNSで記録していた家系調査が話題になり、「面白い」「自分もやってみたい」という声が集まる中、テレビ局のスタッフが直接コンタクトを取ってきたらしい。静香さんは、家系調査をする一般人代表として出演することになった。

「出演するのに抵抗ないんですか?」
「ううん、1~2分の取材だし、せっかくだからやってみようかなって。」

特集は、ラグビーの五郎丸選手の苗字の話から始まり、一般の人の家系ストーリーにつなぐ構成らしい。一般人が1000年たどった静香さんの「遊馬野」の調査過程がいい題材になりそうだ。

取材に向けて、個人情報を配慮しながら資料を整理。遊馬野家の家系図を短時間で説明できるよう簡潔にまとめた。

「楽しみですね。」
「うん!でも、ちょっとドキドキしてる!」と静香さんが照れくさそうに笑った。
放送は明後日。取材を通じて、静香さんの家系調査の魅力が多くの人に伝わるといいな。

-しずか御前、SNSで舞う-

ちらっと静香さんのSNSを見せてもらう。

しずか御前🚲▶ルーツ探し

前々から気になっていた近所の家系図やさんに行ってみた話~♪

清田区役所でお父さんの戸籍取ったよ!
しかも西区のおじいちゃんの戸籍も清田で取れるんだ!?

ひいおじいちゃんまで判明!٩( ᐛ )و
…江戸時代!やばい!5代前とかロマン~!

仙台ナウ(‘ω’)ノ
現在地の報告。迷子になりかけたけど何とか到着~!

遊馬野家をさかのぼる過程が、短い文章ながら生き生きと綴られている。コメント欄もこれまた面白い。

💬 晩御飯何がいい? 🚙静子御前
💬 隣の部屋にいるよ。聞きに来てよ^^; 🚲しずか御前

(静子御前)っていうのはお母さんの静子さんかな。仲良さそうだな。

💬 仙台ナウ٩( ᐛ )و 🚲しずか御前

💬 仙台ナウ٩( ᐛ )و 🚙静子御前
💬 マジ?(;゚Д゚) 🚲しずか御前
💬 マジ。空港で迷子中٩( ᐛ )و 🚙静子御前

静香さんが仙台に行った話だ!あとからお母さん来たって言ってたな

他にも💬サークルサボんなよ とか大学の友人らしきコメントがチラホラ。
徐々に💬私も調べています! みたいな家系調査仲間からの書き込みも増えてきている。
思わずスクロールする手が止まらなくなり、読み進める。
「おお、こんなコメントまで。しずか御前、人気ですね!」
「ちょっと!恥ずかしいから!」
静香さんは慌ててスマホを取り返す。
「…後で、こっそり見てよね。」

-「3、取材させてください」-

「で、3つ目なんだけどね。渡辺さんの会社を取材させてほしいの。」
「わかりました。いいですよ。」
「まだ何の取材か言ってないけど…」

詳しく聞いてみると、大学の授業での課題だという。テーマは企業研究。
大企業についてまとめるのも、知り合いやアルバイト先の企業(大小問わず)を取材するのも自由らしい。

「よいですよ。どうぞ。」
「今じゃなくて、来週クラスの3人と一緒に来てもいいかな?」
「もちろんです」

-リアル源静香、テレビで舞う-

静香さんがテレビ番組で苗字のルーツを特集したコーナーに出演。
宮城まで調査に出向きながら、地元札幌に記録があったことが軽妙に紹介され、1000年の家系をさかのぼる過程が分かりやすくまとめられていた。

スタジオでは、「名前が国民的アニメのヒロインと同じ」といじられながら、
「次は源家の調査結果も教えてほしいですね!」と司会者に締めくくられた。

自然体で明るい彼女の姿が、多くの視聴者に好印象を与えたに違いない。

翌日、静香さんのSNSには「テレビ見たよ」「面白かった!」というコメントが多数寄せられた。

巨大掲示板でも『朝のニュース番組でかわいい子が家系図を作っている件』『リアル源静香ハケーン』と話題に。一時盛り上がったが、すぐに収束した。
「かわいいは嬉しいんだけどねー。なんかちょっと怖いね、ああいうのに書かれると。」と静香さんは照れくさそうに笑う。

-存在理由-

翌週、静香さんと友人3人が取材にやってきた。
レジュメには4つの質問が並ぶ。

🔹 創業理由
浪人と留年を経て行政書士の資格を取得。
「大した理由はないんです。」

🔹 主な事業
家系図作成業務のみ。自分の家系図を作ってみて、面白いと感じたのがきっかけ。
「これしかできないんです。」

🔹 事業の歩み
ネット普及期に家系図作成とHP営業がうまくマッチした。
「たまたま何とかなりました。」

🔹 経営理念
「特にないんです。」
「…ないんですか?」
「…ないんですよ。」
「なくていいんですか?社会貢献とか。」
茶髪メッシュの中村君が問いかける。どことなく生意気だが、目は真剣だ。
「存在し続けること自体が、会社にとって大きな使命なのかもしれませんね。」
「潰れないってことですか?それって当たり前じゃないんですか?」

会社が存在するだけで雇用が生まれ、取引先が潤い、銀行とも取引できる。
「存在し続けるだけでも結構大変なんですよ。」

「存在すること自体が社会貢献か。」
中村君は少し考え込むように天井を見上げた。次第に真剣な表情から少しだけ納得したような表情に変わり、「なるほど」と小さくつぶやく。

-広がる多様性、深まる専門性-

「基本的な質問ですが、行政書士ってどんな仕事ですか?」
長い髪を耳にかけながら、落ち着いた雰囲気の佐々木さんが尋ねる。

「役所に提出する書類を代わりに作るのが主な仕事です。個人なら車庫証明や遺言手続き、法人なら会社設立や許認可業務が中心ですね。」

「家系図作成業務って、かなりマニアックですね。」
腕を組みながら、少し考え込む様子の斉藤君。
「そうですね。でも、一本に絞ると専門性が高まるのが魅力です。」

行政書士に限らず幅広い業務を浅く広く手掛けるオールマイティ型と、特定分野を深く掘り下げるスペシャリスト型がいる。
「どちらが良いとも言えませんが、自分の性格や特性に合った選択をするといいのかもしれませんね。」

質問に答えた後、こう続けた。
「せっかく来てくれたので、専門性を追求するとどうなるかを体験してみませんか?」
隣室に控えていただいていた家系図の超スペシャリスト、篁先生を招く。

-専門性の深淵に立つ男-

カチャッとドアが開き、篁先生が登場。
「やあやあ、源君。それとそのお友達の皆様かな?初めまして、篁です。」
スタスタと応接室に入ってきた篁先生は、笑顔で手を差し出し、順番に握手を求めた。
「中村です。あんまり苗字とか家系に興味はないですが。」
「中村君か。全国で第7位の苗字だね。『原野や谷間の中心にある村』という意味で、全国各地に中村という地名があり、そこから派生した苗字が多いんだ。君の出身はどこだい?」
「兵庫です。尼崎。でも、さっきの話とは無関係かもですね。」
「なるほど、兵庫か。特に有名なのは埼玉県秩父市中村発祥で、桓武平氏の子孫中村氏だ。その一部は鎌倉時代に兵庫にも移り住んでいるよ。」
中村君は少しうれしそうに「あ、そうなんだ」とつぶやく。
「面白そうなお話ですね。」佐々木さんは柔らかく微笑みながら、丁寧にお辞儀をする。
「佐々木さん、初めまして。全国で第13位の苗字だね。佐々木姓は、近江国蒲生郡佐々木、今の滋賀県安土町が発祥だ。この地域出身の宇多源氏の一族が鎌倉幕府の成立に深く関与したことでも知られているよ。」
「苗字の話って奥が深いんですね。」両手で握手をしながら、斉藤君は真剣な表情で篁先生の目を見る。
「サイ藤さんか。サイの字は簡単な方かな?難しい方かな?」
「簡単な方です。」
「サイ藤のサイにはいくつか異体字があるが、元は同じルーツだ。藤原氏の子孫が伊勢神宮の斎宮寮で長官を務めたのが由来なんだ。漢字の成り立ちでは『斎』が古く、『示』が五体を表す。一方、『斉』は『一斉に』という意味で、力を合わせるニュアンスがあるね。」  篁先生はホワイトボードに簡単な図を書きながら説明を続けた。
その場の空気は興味津々とした雰囲気に包まれ、先生の話にみんなが聞き入っていた。

-逆襲の中村、知識に散る-

「僕の母さんの旧姓、逆瀬川(さかせがわ)って言うんですが…」
中村君が少し得意げに珍しい苗字を持ち出す。

「逆瀬川さんか。地名に由来する苗字だ。有名なのは鹿児島県姶良郡姶良町の島津氏家臣、逆瀬川氏。桓武平氏の流れをくむ家系だね。君の母さんは鹿児島出身かい?それとも君と同じ兵庫じゃないかな?」
「…はい。兵庫です。なんでわかるんですか?」
「九州、とくに鹿児島以外ではあまり見られない苗字だけど、兵庫県尼崎周辺には少し集中している。尼崎には逆瀬川町という地名もあるからね。君が尼崎出身なら、お母様もその辺りかなと思ったんだ。」

「サークルに蓮井(はすい)さんって方がいます。ちょっと珍しい苗字でしょうか。」
驚いて固まる中村君を助けるように、佐々木さんがやんわりと話題をつなぐ。

「そうだね。蓮井さんは石川県か香川県に多い苗字だ。」
「四国って言ってたから、たぶん香川です。」
「香川なら高松市かさぬき市が有力だね。特にさぬき市寒川町神前出身なら、苗字帯刀を許された大庄屋の家系もある。この蓮井家は寒川町史に家系図が載っているんだよ。」

-禁令を越えた苗字の物語-

「江戸時代、庶民に苗字がなかったのに、どうしてルーツが分かるんですか?」
斉藤君が手を挙げる。

「実は、江戸時代の庶民にも苗字はあったんだ。」
庶民は幕府の禁令で公には苗字を使えなかっただけで、手紙や寄進帳には苗字が署名されていることが多かったという。
「そもそも苗字がないなら、幕府がわざわざ使用を禁じる必要はないからね。」
学生たちは頷きながら聞き入る。
「近年の研究では、庶民の苗字が江戸時代以前に遡れることも分かっている。武士や名族とつながっている例も多いんだよ。」

-逆転裁判-

「家系を調べて、悪いことや怖いことが分かることってありますか?」
中村君が少し構えるように尋ねる。

「ん?…うん、そうだなぁ…」
篁先生が珍しく言葉を選んでいる。
その様子に、静香さんの先祖が住んだ霧然村の地名辞典を見たときのこわばった表情を思い出した。

「気をつけるべきなのは『身分記載』くらいですかね。」
助け船を出すと、篁先生が軽く笑って頷く。

「身分に関しても、江戸時代以前に武士だった家系が帰農している例は多い。逆に、江戸時代に武士だった家が明治維新で没落することもあれば、裕福な商人や地元の有力な庶民が武士以上の暮らしをしていたこともある。時代や状況によって大きく変わるんだ。」

篁先生の柔らかな口調に、中村君も少し肩の力を抜いたようだった。

-鷹がいない空とオフトゥン-

話題は珍しい苗字へ。

「『小鳥遊(たかなし)』は、鷹がいないと小鳥が安心して遊べるから。」
「『四月一日(わたぬき)』は、布団の綿を抜く季節だから。」
「日本一長い苗字は『沼田下沼田沼田』というんだ。」

篁先生は、「日本の苗字には遊び心や、季節、土地への愛情が込められている」と語る。
学生たちは笑いながら興味津々に聞き入る。

-死神を超えし愛-

話題は静香さんの家系図に出てきた「捨吉」という名前に移る。
静香さんの4代前、明治生まれの要次郎氏の弟に「捨吉」という名があった。

「ひっでえ名前!」
学生たちの声に、篁先生が穏やかに手を挙げて制する。

「『捨吉』という名前には深い理由があるんだ。昔は『死神』が信じられていて、幸せな子どもを攫うと考えられていた。それを避けるため、『この子は不幸な子だ』と見せかける名前をつけたんだ。」

さらに、豊臣秀吉の幼名「お棄(すて)」と「お拾(ひろい)」にも触れ、親の深い愛情が込められていることを語る。

篁先生は静香さんを優しい目で見つめる。
「源さんの家系図を見ると、捨吉さんの前に兄妹が早世している。ご両親は、どうしても死神に連れて行かれたくなかったんだろうね。」

先生の語り口が柔らかく、その静かな熱意が学生たちの心にじんわりと響いていた。

-知恵の灯を託す男-

「さっ。渡辺君、静香さん、皆さん。今日は楽しかった。そろそろお暇するよ。」 「もう一つだけいいでしょうか?」 静香さんが先生を呼び止める。 「家系図って、なんで作るんだろう?」

篁先生は柔らかな表情で静香さんを見返し、ホワイトボードの前に立つ。 「渡辺君、もう少し話してもいいかな。」 「もちろんです。」

篁先生がゆっくりと語り始めた。
「家系図を作る人は、家族や先祖への愛着、伝来品や言い伝えへの関心を持っていることが多いです。一方、それらが欠けていると関心を持ちにくいかもしれません。」
静かな頷きが広がる中、篁先生は続ける。

「家系図は、父母や先祖への愛着を起点に、自己の過去を拡大し、図に示すものだと私は考えます。それによって得られるのは、先祖の経験を知恵として生かす力、自尊心の安定、そして家意識です。ただし、それが自慢話になったり、保守的な考えに陥るリスクもあります。」

静かな空気の中、先生の言葉がじんわりと響く。

「ですが、ただ知るだけでは不十分です。そこから何かを学び取らなければ、何かを生み出さなければ、人生は決して豊かにはならないと…私は思っています。」

篁先生の言葉に、学生たちは真剣な表情でそれぞれの思いを巡らせていた。

-知恵の灯を拡散する女-

その夜、静香さんのSNSが更新された。

しずか御前🚲▶ルーツ探し
【人はなぜ家系図を作るのか?】
記事には篁先生の話が丁寧にまとめられていた。

『知るだけでは不十分。学び、行動しなければ、人生は決して豊かにはならない。』
家系図を作る理由――それは、過去を知り、未来につなげるためなんだと思う。学び続け、何かを生み出す。その繰り返しが、私たちの人生を豊かにしてくれるのかなぁ。

コメント欄はすぐに賑わい始める。
お母さんや友人からのいつもの軽妙なやり取りも健在だ。

💬 涙が止まらない。拭きに来て(´Д⊂ヽ 🚙静子御前
💬 めんどくさいなぁヾ(・ω・`) 🚲しずか御前

💬 悪くなかったね、今日の話(ナカムゥ)
💬 あんたΣ(゚Д゚)一番感動してたじゃん! 🚲しずか御前

-天河伝説殺人事件-

さらに、テレビの影響で見知らぬ人からのコメントも寄せられ始める。

💬 テレビで見ました。父方源さんの調査も進んでいますか?(二人静)
💬 お寺からのお返事がき次第、岩手に行く予定です! 🚲しずか御前
💬 SNS楽しみにしています。何だか親近感が湧きます。(二人静)
💬 ありがとうございます!これからも更新していきますね! 🚲しずか御前

静香さんのSNSは、篁先生の言葉と家系調査への熱意でさらに活気づいている。
そして、「二人静」という名前と親しげなコメントが、どこか引っかかるような余韻を残していた。そして、その予感は、やがて彼女をさらなる発見の旅へと導くことになる。