【第7回】 「土地」と「苗字」で先祖を遡る…戸籍のない時代の家系調査法

「土地」と「苗字」で先祖を遡る…戸籍のない時代の家系調査法

今回は、土地と苗字に基づいた家系調査の様子を見ていきます。「※本連載は、家系図作成代行センター株式会社代表・渡辺宗貴氏の著書『わたしの家系図物語(ヒストリエ) 』(時事通信社)から一部を抜粋し、物語形式で具体的な家系図の作り方を見ていきます。

「土地関係の資料」を用いて、先祖の暮らしを分析

<登場人物>
葛西 美々(かさい みみ)
戸籍を見て先祖に興味を持ち、家系図作りに取り組む高校3年生。素直で真面目な性格。

筧 探(かけい さぐる)
「家系図作成講座」の講師。年齢不詳で、ひょうひょうとした雰囲気。

※本連載では、家系調査をするという目的上、差別的意味合いを含む可能性のある語句を差別的意図ではなく、歴史的用語として用いています。

区民センターで行われる「家系図作成講座」に訪れた高校生の葛西美々。戸籍を遡っていくと、200年前の先祖までたどり着きました(関連記事:『江戸時代を生きた祖先が判明!? 戸籍から「家系図」を作る方法』)。今回は、その続きを見ていきます。

「それでは、戸籍よりもっとさかのぼった調査をするために、必ず必要な基礎資料集めについて話します。資料は、『土地関連』と『苗字関連』の大きく二つに分かれます」

筧先生がホワイトボードに書きながら話してくれる。

「まずは、土地関係の資料を集めること。これによって、ご先祖様の土地の所有状況、住んでいた場所の地図、同姓の分布、住んでいた場所の歴史的な沿革、すなわち、家数・人口・神社・寺院・特産物などがわかり、ご先祖様の暮らしが少し見えてきます」

「土地関連」の基礎資料収集
・旧土地台帳
・グーグルマップ
・電話帳
・地名辞典

「次に、代表的な苗字辞典や家紋事典には、どのように書かれているかを調べます。また、明治時代(1868~1912)以降の代表的な人名録・商工録に、ご先祖様の名前が記載されているかどうかを調べます」

「苗字関連」の基礎資料収集
・姓氏家系大辞典
・角川日本姓氏歴史人物大事典
・苗字辞典
・人名事典等
・都道府県別姓氏家紋大事典

この二つの基礎調査が、この先の本格的な調査の土台となるという。

「少し具体的にやってみましょうか。では、葛西さんから。電話帳の調査を行ってみましょう」

プロジェクターにつながれたノートパソコンには、すでに電話帳ソフトが立ち上げられている。

「同姓の分布を調べることは重要です」

苗字によっては、全国に広がる苗字、各県特有の苗字、ある県の一部に密集している苗字、全国的に珍しい苗字などがあるという。

「『葛西』という苗字の分布を見てみましょう」

例 青森県葛西家──同姓の分布から読み取れること
全国・・・約7000軒
青森県・・・約3000軒

「半数近くが青森県に分布していることがわかります。なぜ、青森県にこんなにも『葛西』が多いかですが…」

葛西氏は、葛西という地に桓武(かんむ)天皇の子孫が住み着き、葛西清重(きよしげ)を名乗ったことに始まった。ここまでは、前回の講座で聞いた話(関連記事:『戦国時代から中世・古代まで…戸籍のない時代の先祖を遡る方法』)。次は、その苗字の始祖・葛西清重について調べる。参考文献も、前回に引き続き『姓氏家系大辞典』。

「葛西清重は、鎌倉幕府を開いた源頼朝(みなもとのよりとも)の家臣となり、1189(文治5)年の奥州征伐(おうしゅうせいばつ)に従軍しました。奥州征伐とは、鎌倉政権が東北地方で勢力を誇った藤原氏を征伐するまでの一連の戦いです。清重は、その征伐で大いに活躍し、現在の岩手県南部から宮城県北部に及ぶ広大な土地を恩賞として与えられました」

その後、葛西一族は戦国大名となり、現在の宮城県登米(とめ)市迫(はさま)町佐沼(さぬま)にあった佐沼城などを居城として葛西晴信(はるのぶ)まで続いたが、豊臣秀吉(とよとみ ひでよし)が北条氏を征伐した小田原(おだわら)の陣(じん)に参陣しなかったため滅亡。しかし、その間に葛西一族は北上を続け、南北朝のころには青森県にまで広がっていた。

「そのため、現在でも青森に葛西氏が多いんです」

圧倒的な知識をバックボーンとした説明に、教室中から、ほうっ…という感心のため息が漏もれる。

「そして、戸籍からわかる一番古い本籍地に、現在どれくらい同姓が住んでいるか。葛西家の本籍地は、青森県南津軽郡飯柳村…現在の南津軽郡板田(いただ)町飯柳です」

全国に約7000軒、うち青森県に約3000軒いる葛西家。南津軽郡板田町だと143軒。さらに絞り込むと、飯柳に34軒。

「それではここで、地名辞典で飯柳村の規模を見てみましょう」

筧先生が、青森県の地名辞典を開き、プロジェクターへ。重要なポイントを指し示してくれる。

●飯柳村は、正保年間(1644~1648)から開発が始まる
●明治初年の家数は、71。昭和55年の世帯数163、人口761。
●農業の割合は、ほぼ水田と畑作が半分ずつ
●産物は米の他に、藍葉(らんよう)・大豆・菜種など

「中規模の典型的な農地です。正保年間…すなわち、江戸時代初期から開発が始まったようですが、明治初期の全体の戸数で71軒。昭和55(1980)年には、163軒。2009年の電話帳によれば、現在、葛西家はこの地に34軒も密集して住んでいます。163軒の中で34軒というのはかなり多いです。長い年月をかけて分家を繰り返して勢力を伸ばさなければ、現在の同姓がこれほどの数になることは考えにくい。当家のご先祖様は、飯柳村の初期の入植者の1人で、俗に言う“草分け”だったと思われます」

私の家は、農村地に古くから住んだ家だったんだ。家老という聞き伝えは、やっぱ違うのか。

「きっとこの地に、葛西さんとご先祖様を一にしている方たちがいますよ」

100年以上前に家族だった人たちが、今も青森の飯柳というところに住んでいるんだ…。

「ご先祖様のお墓も残っているかもしれません。勢力のあった家のようなので、郷土資料などにも記録があるかもしれませんね」

先祖のお墓に、郷土資料に記録の可能性。先祖の手掛かりが見えてきて、わくわくする。ともかくまずは、基礎的な調査。集めるべき資料のうち、「旧土地台帳」は法務局へ郵送での取り寄せが必要だが、その他の資料はここの図書館になくとも、大きな図書館にはそろっているそうだ。そこまで進んだら、さらなる調査か…。また来よう。

講座を終えた美々はさっそく、札幌中央図書館に向かった。

「グーグルマップ」からも先祖の手掛かりを掴める

先祖は、どのようなところに住んでいたのでしょうか。山のふもと? 海沿い? どのくらいの広さ? 近所も親族? 実は、村の顔役だったかもしれません。先祖が住んでいた土地についての資料を集めることは、先祖を知るうえでの大きな手掛かりになります。

◆「旧土地台帳」とは

法務局には、明治中期からの土地登記を記録した「土地台帳(旧土地台帳)」が保管されています。「土地台帳」は、誰でも自由に閲覧が許されています。明治時代のものが残っていれば、かつて先祖が住んでいた土地の広さや地価、所有者の変遷、抵当の有無などを確認することができます

郵送で取り寄せることができるので、まずは、先祖が住んでいた土地を管轄する法務局を市町村役場に確認、あるいはインターネットで検索し、問い合わせてみましょう。その際には、調べたい土地の現在の住所を明記し、「土地台帳」の謄本交付を依頼してください。料金は無料です。

◆旧土地台帳に記載されていること

記載されている内容は、おおよそ次のことです。

・「地目(ちもく)」
土地が何に使用されているのかを記載しています。宅地、役場敷地、堤塘(ていとう(防波堤))、墳墓地(ふんぼち(墓地))、溝渠(こうきょ(用悪水路))、砂防地(山林や原野)などを記載しています。

・「事故」「事由」
所有権に変更があって登記が行われた場合、その理由が記載されます。例えば、質権が設定されたとか、売買されたとか、相続したなどです。

・「所有者の住所・氏名」
所有者が移転した場合、その住所と氏名が記載されます。

他に、「字(区画名)」「地積(面積)」「地価(価格)」「地租(課税金)」「沿革(地目・地積などの変遷)」「登記年月日」などが記載されています。内容を詳しく知りたいときは、法務局に尋ねるとよいでしょう。

美々が取った葛西家の旧土地台帳には、先祖の名が記載されていました(図表1)。

[図表1]美々が取った葛西家の旧土地台帳


美々の「5代前 葛西権八郎」から「葛西常𠮷(美々の4代前葛西綱次郎の弟)」に所有権が移ったようです。

その後、「葛西○○」なる人物に相続によって所有者が変わっています。おそらく葛西○○氏は、「葛西常𠮷」の息子でしょう。電話帳などで、葛西○○氏あるいはその子孫を見つけることができれば、葛西家について話が聞けるかもしれません。

◆「グーグルマップ」で、地図上の本籍地を見る

「グーグルマップ(Googleマップ)」とは、インターネットを通して提供している、無料の地図検索サービスです。地図、航空写真、地形などの複数の表示モードがあります。グーグルマップは、大変便利です。先祖が住んだ土地のお寺の把握にも使えます。ストリートビュー(表示モードの一つ)で、その土地の町並みを見るのも感慨深いです。取得できた最古の除籍簿の本籍地を現在の市町村名に変換してから、今の地名でグーグルマップを使って調べてください。その際に、グーグルマップで「(地名)寺」「(地名)神社」「(地名)公民館」「(地名)図書館」などと検索し、地元のお寺や機関を把握しておくと大変便利です。

◆「電話帳」で一族を探す

本籍地の市町村変換ができたら、先祖が住んだ土地に同姓の家がどのくらいあるのかを必ず把握しておきましょう。そのためには、本籍地の市町村のNTTの電話帳『ハローページ』を調べます。全国の『ハローページ』は、各公立図書館などに備え付けられています。

●「渡辺」「渡邉」「渡部」「渡邊」など、漢字が違えど読みが同じ家は同族候補です。
●先祖の名前と同姓の人物、先祖の名前の一文字を使っている人物も拾い出します。

電話帳に記載された苗字を全国単位で検索するには、電子電話帳が便利です。現在販売されているものとしては、「写録宝夢巣(しゃーろっくほーむず)」(日本ソフト販売)があります。価格は8800円ほどですが、全国的な苗字の分布や順位、県市町村単位での住所・氏名・電話番号・苗字のランキング、フルネームでの検索なども可能です。ただし近年は、携帯電話の普及と個人情報保護のため、電話帳に掲載しない家が増加しました。もしも可能ならば、2000年ごろのものが最も収録数が多いので、こちらを手に入れましょう。

◆電話帳に同姓が載っていない!そんなときは…

調べてみたが、同姓の家が全くいないというケースもあり得ます。その理由としては、次のことが考えられます。

●もともと珍しい苗字で数が少ない。
●一族まるごと、あるいは一族の本家に当たる人物が移住した。
●先祖が何代も他家からの養子だった。

こういう場合は、その市町村に拘らず、郡から県へと検索の網を広げてください。さらに何らかの理由で血脈が先細りになっていて、同姓の同族がほとんどいないという家もあります。その場合は、その地域周辺から先祖の戸籍に入籍した妻や養子の実家を調べてみてください。これらの家は直接の同族ではありませんが、あなたの先祖と関係のあった家ですから、なんらかの情報を持っているかもしれません。

◆地名辞典を調べてみよう

先祖が住んだ土地の歴史を調べるのに使う資料は、『角川日本地名大辞典』と『日本歴史地名体系』です。少し難しい言葉も出てきます。辞典に書いてある内容が今はよくわからなくても、先祖が住んだ土地のコピーは必ず取っておきましょう。

角川日本地名大辞典(全49巻)』(角川書店)
角川書店が1978(昭和53)年から都道府県別に刊行した地名辞典です。都道府県別に編へん纂さんされています。先祖のかつての居住地の歴史的な沿革を手早く知ることができます。ある村の総石高や人口の変遷、領主名、住民の職業、寺院や神社などが簡潔に記されており、庄屋の名前も散見されます。また、その地域の代表的な郷土資料も収録されています。

[図表2]角川日本地名大辞典

日本歴史地名体系(全50巻)』(平凡社)
平凡社が1979(昭和54)年から都道府県別に刊行した地名辞典です。先述の『角川日本地名大辞典』と併せて読むことで、先祖の住んでいた村の状況がより詳しく理解できます。


[図表3]日本歴史地名体系