家系図の作り方ガイド
7. 表装|巻物や掛軸
本表装(手表装)と機械表装
表装には、大きく分けて本表装と機械表装があります。
簡単に言うと、本表装は昔ながらの職人(表具師)の手仕事による表装で、機械表装は最新の技術を使った機械による表装です。
それでは、どちらが良いのでしょうか。
どっちがいいのか
まず、機械表装を扱う表装店の店主さんは、「見た目には大きな差はなく、今は機械表装の技術も進歩しているので、そんなにお金をかけなくても気軽に楽しんでほしい」とおっしゃっていました。
一方で、本表装をしてくれる表具師さんは、「本当に良いものを、代々伝えていきたいなら本表装がよい。機械表装が悪いわけではないが、本表装とはまったく別のものだ」と話されていました。
また別の表具師さんも、「本表装は材料費そのものが高く、良さがなかなか伝わりにくい」と話されていました。
このお話を聞くと、機械表装は「手ごろな価格で気軽に楽しむためのもの」、本表装は「本当に良いものを長く大切に残すためのもの」と言えそうです。
つまり、どちらが良い悪いという話ではなく、考え方や目的が違うのです。
ただし、本表装の良さは、価格や見た目だけでは伝わりにくい面があります。
そこで、ここからは本表装の魅力も含めて、機械表装と本表装の違いをできるだけわかりやすくご説明します。
なお、私自身もこの仕事を始めるまでは表装についてほとんど知りませんでした。現在は表具店や書道店、表具師の方々に教えていただきながら学んでいるところですので、なるべく実際に伺った内容を正確にお伝えするようにします。
また、正直に申し上げると、私自身も「結局どちらがいいか」と問われると今でも悩みます。実際に両方の見本を持っていますが、自分がお客様ならどちらを選ぶか、簡単には決められません。そのため、以下の説明も「絶対にこちら」と断言するというより、目的に応じた違いを整理するつもりでお読みいただければと思います。
見た目の違い


どちらが機械表装で、どちらが本表装かわかるでしょうか。
上が本表装ですが、実物を見てもほとんど違いはありません。
アップで見ると次のようになります。
本表装

機械表装

正直なところ、写真では違いがわかりにくいと思います。
実物の折り目などをよく見ると、本表装のほうに若干の手作り感がありますが、見た目にはほとんど差がありません。むしろ機械表装のほうがきれいに見える場合もあります。
表装について予備知識のない方に本表装と機械表装を見せると、多くの方が「機械表装のほうがきれい」と答える、という話もあります。
ただ、私の素人目には、本表装には機械表装にはないぬくもりがあるように感じられます。これは実際に表具師さんとお会いし、その真摯な姿勢や、表装にかかる手間や技術を見せていただいているからこそ、余計にそう思うのかもしれません。
うまく説明しにくいのですが、少しでも伝わるように例を挙げてみます。
例えば、筆で書いた文字とパソコンの正楷書体の違いです。


また、手編みの手袋と市販のメーカー品の違いにも似ています。


あるいは、私が3日かけて作ったズゴックと、完成品として売られているゴックの違いにも少し似ているかもしれません。


感覚的なものなので、どうしても言葉では伝えにくいのですが、要するにそんな違いを感じます。
下手な字でも手書きの手紙のほうが想いが伝わることがありますし、きれいなホテルより飾らない民宿のほうが安らげることもあります。そうした違いに少し近いように思います。
重さ・手触りの違い
これも文章では伝えにくいのですが、かなり違います。
本表装のほうが、より柔らかく軽いです。
表装は見た目の美しさだけではなく、長期保存の役割も持っています。柔らかく軽いほうが傷みにくく、長期保存に向いています。
これは、本表装が「作品の紙の厚さに応じて裏打ちの紙の厚さを選ぶ」「巻物か掛軸かによってふさわしい裂地を選ぶ」など、一点一点に対して本来の目的にかなった作り方をしているからだと思います。
裂地の材質について
ここで裂地について、簡単な予備知識をまとめます。
掛軸より巻物のほうが柔らかい裂地を使うべきです。巻いたり開いたりするため、傷みやすいからです。また、柔らかいほうが手触りも良くなります。
裂地の代表的な素材には絹と綿があり、一般的には絹のほうが高価で、柔らかく表装に向いています。
また、裂地には縦糸と横糸があり、それぞれが絹や綿で構成されるさまざまな種類があります。
基本的には、より柔らかい裂地を使うとよいようです。特に巻物の場合、柔らかい裂地でないと、巻いたときに傷みやすくなります。固い裂地だと、何度も開閉しているうちに負担がかかり、少しずつ剥がれてくることがあります。
全体的な品質について
本表装の場合は、もともと表具師さんがすべてを考慮した材質を選んでいるため、仕上がりの品質については基本的に安心です。
信頼できる表具師さんであれば、安く請け負うためにふさわしくない材質を選んだり、手間を省いたりはしません。掛軸なのか巻物なのかはもちろん、本紙の微妙な厚さに応じて最適な表装方法を選んでくれます。
自分が満足するものでなければお客様に渡さない、という姿勢が感じられます。まさに職人魂です。
裏打ちの紙へのこだわり
本表装のこだわりの一つとして、裏打ちの紙があります。
本紙の裏に補強やしわ伸ばしのために薄い紙や布を貼ることを裏打ちといいます。

この裏打ち用の紙は、仕入れてから1年間は使用せずに保存するそうです。
なぜかというと、紙を仕入れた地域と使用する地域では気候が違うからです。手漉きの紙は生き物のようなもので、ほんの少しの水分量の違いで張りが変わります。その土地の気候になじむまでは使わないのだそうです。
機械表装の場合
一方、機械表装は掛軸・巻物・本紙の質を問わず、一律の方法で表装されることが多いようです。
本来は巻物か掛軸かによって裂地の質、特に柔らかさを考慮しなければなりませんが、機械表装では同じ裂地が使われることがあります。
例えば、もともと掛軸用のやや厚く固めの裂地を、そのまま巻物にも使うと、何度も開くうちに剥がれてきてしまい、長期保存に向かない場合があります。
本来なら別々に考えるべき巻物と掛軸の表装方法が、区別されず一律になることがあるわけです。
軸先の違い
本来は巻物か掛軸かによって軸先も異なります。

左が本表装の軸先、右が機械表装の軸先です。
本表装の軸先のほうが細く、本来の巻物の形に合っています。

一方、機械表装では軸と軸先がほぼ同じ太さになっています。

掛軸であれば大きな問題にならない場合もありますが、本表装の細い軸先のほうが、巻物としては正統な形です。
巻物より掛軸の流通量が圧倒的に多いため、機械表装では掛軸を想定した材質や作り方が、そのまま巻物にも用いられやすい事情があるようです。
価格も含めた品質について
表装の価格については、「業者に頼むといくら位かかるの?」でも触れましたが、ここでは品質も含めて少し具体的にお話しします。
本表装の価格は、最低でも10万円以上が一つの目安で、あとは材質によって上限なく上がっていきます。
例えば、当社には数種類の本表装見本があります。
普通品と呼ばれる裂地を使ったものです。

こちらは高級品と呼ばれる裂地を使ったものです。

両者に品質上の差はありません。作成方法や工程も同じです。
違うのは、高級品のほうがより紋様の映える裂地や、金襴の入った裂地を使っていること、つまり裂地そのものの原価です。
これは品質の問題というより、見た目の好みやこだわりの問題だと思います。
軸先はどちらも黒檀を使っていますが、これを水晶や象牙にすればその分さらに価格は上がります。裂地にももっと高価なものがあり、本表装の価格には上限がありません。
要するに、表具師さんが自信をもって出せる材質の中で、どれを選ぶかによって価格が変わるのです。
機械表装の価格について
機械表装は安いものだと1万円台からあります。
裂地にもさまざまな種類があり、メーカーごとに独自の名称が付けられている場合もあります。絹といっても、天然素材だけではなく化学繊維が混ざったものなど、内容はさまざまです。
私自身、すべてのメーカーの品質を把握しているわけではないので断言はできませんが、感覚としては、あまり安すぎるものは避けたほうが良いかもしれません。
いろいろな価格帯の機械表装を見た感覚からすると、最低でも3万~5万円以上、できれば5万~10万円前後のものを選んだほうが、後々の保存まで考えると無難だと思います。
機械表装の相場からするとやや高めですが、お付き合いのある書道店の店長さんも、「家系図のような大切なものを表装するなら、このくらいのランクからが良い」とおっしゃっていました。
そのくらいの価格帯になると、裂地も柔らかめのものが選ばれ、長期保存に向く丈夫な仕上がりになるようです。
少し重たい話になってしまいましたが、本来、表装の話はもっと楽しいものです。ここからは楽しい話もしていきます。
裂地の色・柄の選び方
色も柄も、基本的には好みで選んで良いと思います。
イメージしやすいように写真を多く使います。冊子の予算の都合で白黒だったものもありますが、どうか想像力で補ってください。
グリーン系

本表装の表具師さんのおすすめです。確かにぱっと見で非常に良い印象があります。グリーン系の中でも、やや濃いめを選ぶと本紙が引き立ちます。
ホワイト・グレー系

上品で良い感じです。グリーンに比べると、全体のメリハリはやや弱めかもしれません。
オレンジ・レッド系

きれいです。女性の方には気に入られることも多いのではないでしょうか。少ない系統ですが、個性的で素敵だと思います。思い切って変わった色にしたい場合には、明るめのオレンジ・レッド系もおすすめです。
ブラウン系

重厚な雰囲気は出ますが、やや重たく感じられます。表具師さんからは、お経の巻物のような印象になりやすいので避けたほうが無難とアドバイスをいただいています。ただ、渋くて格好よさもあります。
ブルー系

これもきれいで、本紙がよく引き立ちます。
軸先の材質の選び方
軸先には、木目のもの(紫檀・黒檀など)、陶器製、木製の軸に色を塗ったもの、水晶、象牙など、さまざまな種類があります。
基本的には好みで選んでかまいませんが、一般的には価格面も含め、木製か陶器製が選ばれることが多いです。
特に強い希望がなければ、裂地の色や掛軸か巻物かに合わせて、表具師さんが最適なものを選んでくれます。
表具師さんからのアドバイスとしては、掛軸には軽い木製よりも重みのある陶器製のほうが向いています。下にくる軸先に重みがあると、掛けたときにしっくりくるからです。
逆に巻物には、重い陶器製よりも軽い木製のほうが向いています。手に取って開くものなので軽いほうが扱いやすく、傷みにくいからです。
また、木製を選ぶなら、木目の軸先の中でも黒系、濃い色の紫檀か黒檀が作品を引き締めるとのことでした。
巻物には木目の軸先が合いやすく、裂地の色に合わせて黒檀か紫檀を選ぶのがよいようです。
黒檀

紫檀

掛軸には陶器製の軸先を使い、裂地の色に合わせて表具師さんに色を選んでもらうのがよいようです。
小話 虎の絵の掛軸に象牙の軸先は向かない
表具師さんから伺った、ちょっとした薀蓄です。
象牙の軸先は家系図にはふさわしくないそうです。
例えば虎の絵の掛軸にも、象牙の軸先は好ましくないとのことでした。虎も生き物、象も生き物で、一つの作品の中で二つの動物がぶつかり合うからだそうです。
その考え方からすると、人と人のつながりを描いた家系図にも、象牙の軸先はあまり向かないようです。
桐箱について
桐箱には和桐と米桐、つまり日本の桐で作ったものとアメリカの桐で作ったものがあります。
こだわるなら和桐なのでしょうが、実際には見た目や品質に大きな差はないそうです。「どうしても和桐がよい」という場合以外は、米桐でも十分だと思います。
本表装と機械表装、一番の違いは仕立て直し
実は、本表装と機械表装で最も大きな違いは、仕立て直しができるかどうかです。
仕立て直しとは、将来、お子様、お孫様、ひ孫様、その先の子孫の代になって家系図を書き足していく際に、本紙に新たな紙を継ぎ足すことです。
本表装は、水に溶ける糊を使った昔ながらの方法なので、本紙を剥がして仕立て直すことができます。
一方、機械表装は糊を使わず熱プレスなどで作られているため、基本的に剥がして仕立て直すことはできません。
裏打ちだけ糊を使うなどの工夫がされている場合もありますが、何十年後に本当にきれいに剥がして仕立て直しができるかについては、疑問もあるそうです。
半永久的に代々伝えていくなら本表装
本表装の表具師さんは、「代々伝わってきたものには魂が宿る」とおっしゃいます。
自分の代で作った家系図を、さらに代々伝えていきたい場合や、子孫が名前を書き加えていけるようにしたい場合は、本表装が向いています。
特に巻物は、本来保存を目的とした形式ですので、紙を継ぎ足していくことに向いています。
一方、掛軸は保存よりも、作品として飾ることが主な用途です。紙を継ぎ足していくと、いつか長すぎて掛けられなくなることもあります。
子どもや孫の代くらいまで楽しめれば十分なら機械表装
ただ、実際には「自分と子どもと孫くらいまで、何十年か楽しめれば十分」とお考えになる方も多いです。その場合は機械表装でもよいと思います。
機械表装の場合でも、できるだけ長く書き足していけるよう、左側にスペースを空けて仕上げることができます。

なお、当社では家系図の左側に「平成○○年○月○日 本書作成 行政書士 渡辺宗貴」と書いて職印を押すこともできますが、あまりおすすめしていません。

赤の職印は映えますし、見た目も悪くないのですが、私の名前を書くより、お子様やお孫様、その先の世代のためにスペースを空けておいたほうがよいと思っているからです。
また、お子様やお孫様がいらっしゃる場合には、将来の配偶者様を書き足すスペースを空けておくこともできます。

ただし、未来の家系がどうなるかは誰にもわかりません。離婚や再婚などもありえますし、最終的には全面的に書き直さなければならなくなることもあります。
ですから、あまり厳密に考えすぎず、「何十年か楽しめればよい」という場合は機械表装、「今回作った家系図を何代先までも受け継ぎたい」という場合は本表装、という考え方でよいと思います。
結局どちらがいいのか
こうして比べていくと、どうしても本来の表装の目的や作り方を守っている本表装の良さが強調されがちです。
ただ、機械表装を扱う表装店の店長さんのおっしゃる「そんなにお金をかけなくても良いから、気軽に楽しんでほしい」という考え方も、やはり大切だと思います。
機械表装は、表装というものを少しでも身近にし、これまで気軽には楽しみにくかったものを楽しめるようにした技術だと思います。
昔の料理漫画で、「厳選された素材を最高の料理法で」という世界と、「味は変わらないけれど形の悪い野菜や、売り物になりにくい部位を安価で仕入れて庶民的な価格で提供する」という世界が並んで描かれていました。
どちらが良い悪いではなく、どちらも正しいのだと思います。
追伸
当初この記事を書いた30代のころは、「機械表装も十分に良い」と強く思っていました。もちろん今もその考えは変わりません。ただ、50代になった現在は、家宝として代々伝えていくことを思うと、やはり筆書きの家系図を職人さんの手による本表装で仕立てることに、以前より強く惹かれるようになっています。
2026年1月 渡辺宗貴
家系図を美しく残したい方へ
筆耕した家系図は、巻物・掛軸・折本・額装など、 さまざまな形で残すことができます。
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家系図を家宝として残す文化について
なぜ巻物や掛軸という形で家系図を残すのか、 その意味や魅力についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
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