家系図業者はなぜ消えていくのか|家系図業界20年の変化

家系図業界の裏話③
家系図業者はなぜ消えていくのか

この20年間で、家系図作成業者は200〜300件以上存在していました。 ところが現在では、ほぼすべてが廃業しています。

なぜ、家系図業者は消えていくのでしょうか。

家系図業界を20年以上見てきた立場から、その理由を少しお話ししてみたいと思います。

少し率直な話になりますが、これは家系図業界の構造そのものに理由があります。

家系図業者になるルートは存在しない

まず、そもそも「家系図業者になろう」と考えてこの仕事を始める人は、ほとんどいません。

普通に生活していて、「将来は家系図業者になろう」と考える人はまずいないでしょう。

家系図業者になる正式なルートはありません。

学校の授業もありません。専門学校もありません。修行先も、ほとんど存在しません。

つまり、この仕事は「なろうと思ってなる職業」ではなく、偶然この仕事にたどり着くケースがほとんどです。

実際、私もそうでした。

研究が好きでも仕事として続くとは限らない

もう一つ、よく誤解されることがあります。

それは「家系図が好きな人が家系図業者になる」というイメージです。

しかし、現実は必ずしもそうではありません。

趣味として家系図を深く研究している方はたくさんいます。ですが、その方たちが業者として成功するかというと、必ずしもそうではありません。

家系図業者になるということは、研究だけでなく、商売として成り立たせる必要があるからです。

調査だけでなく、

  • 仕事を取る
  • 依頼者とやり取りする
  • 期限を守る
  • 事務処理をする

といった、事業としての能力も必要になります。

研究者気質の方は、どうしても「調べること」には強くても、「商売として続けること」が苦手なケースが多いのです。

家系図業界は入れ替わりが激しい

その結果、家系図業界では

  • 短期間で始める人
  • 短期間でやめてしまう人

の入れ替わりが非常に多くなります。

こうしてこの20年間に200-300件以上あった家系図業者も、現在ではほとんど残っていません。

これは必ずしも悪いことではありません。むしろ、家系図という分野がまだ若い業界であることを示しているとも言えます。

この仕事は、戸籍を読む力だけでは続きません。苗字、家紋、地域史、古文書、郷土資料など、さまざまな知識を少しずつ積み重ねていく必要があります。

そして、その知識は一朝一夕では身につきません。

その意味で、家系図業界は今まさに「淘汰と入れ替わり」が続いている業界なのだと思います。

2005年頃から行政書士が参入

2005年頃から、行政書士が家系図を作成する仕事が少しずつ広まり始めました。

ただし、この仕事が行政書士の業務として定着していたわけではありません。

むしろ当時は、行政書士の中でも賛否がありました。

家系図作成は比較的新しい分野で、「行政書士がやる仕事ではないのではないか」という意見も少なくありませんでした。

特に、従来の許認可業務などを中心に行っていた行政書士の中には、ホームページで営業を始めた若い世代の行政書士をあまり快く思わない人もいたようです。

当時は、インターネットを使った集客自体がまだ珍しい時代でした。

ホームページビルダーやジオシティーズで作ったサイト、そしてmixiなどのSNSを使って情報発信をする行政書士は、従来の業界から見るとかなり異質な存在だったのです。

2010年前後に業界が大きく動く

2005年から2010年頃にかけて、家系図作成を業務として始める行政書士は徐々に増えていきました。

私自身がNHK全国放送をはじめ新聞やテレビなどのメディアで家系図の仕事を紹介していただいたこともあり、この頃は「家系図の仕事を教えてほしい」という問い合わせも多くありました。

いわば弟子入りのような形で相談を受けることもあり、特に北海道では同じ仕事を始める人が増えたように感じています。

そんな中、2010年頃に一つの出来事が起こります。

それまで行政書士の業務の一つと考えられていた家系図作成について、「行政書士の独占業務ではない」とする判断が示されたのです。

この出来事は、北海道の斜里町で起きた案件がきっかけでした。

この件を境に、家系図作成という仕事は行政書士だけの業務ではなく、誰でも参入できる分野としてさらに認識されるようになっていきます。

参入増加と価格競争

業者が増えたことで状況は大きく変わります。

ここから家系図業界は、いわば「価格競争の時代」に入っていきました。

家系図作成は特別な資格が必要な仕事ではありません。戸籍の取り寄せと家系図作成の方法を知れば、形式としては誰でも始めることができます。

そのため参入は比較的容易でしたが、一方で価格競争も激しくなっていきました。

当時は家系図作成の料金も業者によって大きく異なり、安い価格でサービスを提供する業者も増えていきました。

結果として業界全体で競争が激しくなり、次第に淘汰が始まっていきます。

価格ではなく内容で選ばれる仕事

しかし、この価格競争は私にはあまり影響がありませんでした。

というのも、当時から私は単純な戸籍調査だけでなく、戸籍以上の調査や家系図の製本など、調査内容そのものに重点を置いて仕事をしていたからです。

家系図作成の仕事は、価格だけで選ばれるものではありません。

どこまで調査できるのか、どのような形で家系図を残すのか、業者によって内容は大きく異なります。

そのため、価格を下げることで仕事を増やすという方向には進みませんでした。

結果として、当時安い価格で家系図作成を行っていた業者の多くは、現在ではほとんど残っていません。

自営業として続ける難しさ

また当時は、「家系図の仕事を教えてほしい」という相談も多くありました。

ただ、不思議なことに、そうした形で始めた方が長く続いた例を私は見たことがありません。

自営業というのは、誰かに教えてもらった方法をそのまま続けるよりも、自分で考え、試行錯誤しながら仕事を作っていく部分が大きい世界です。

その意味では、最初から「教えてもらおう」という姿勢だけでは、なかなか続けるのが難しい仕事なのかもしれません。

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